トピック入管業務(リアルなお話)<在留特別許可>
不法滞在(オーバーステイ)の外国人と日本人パートナーとの頼みの綱が在留特別許可の制度です。
在留特別許可とは、法務大臣による人道的な措置として、日本人と婚姻した外国人の不法滞在の状態を解消して、日本での引き続きの在留を許可するものです。
弊支援事務所では過去様々な在留特別許可の案件を扱って参りましたが、一つとても苦い経験がございます。
入管業務の難しさを痛感させられました、この案件に関してお話をしたいと思います。
平成31年2月のことですが、田中氏(仮名)から外国人女性(中国人)との婚姻に関して聞きたいと電話がありまして、弊支援事務所に相談に来られました。
詳しく事情をお聞きしたのですが、その内容は下記の通りでした。
1)中国人女性、劉氏(仮名)は平成10年12月に中国より短期滞在で入国し、以後オーバーステイの状態で日本での在留を続けている。
2)田中氏は会社を経営しており、平成30年10月に前妻(日本人)と死別している。
3)劉氏とは平成26年3月に日本の居酒屋で初めて知り合い、それから程なくして交際が始まった。
4)前妻との死別を契機として、お二人は平成31年1月から同居を開始して、現在に至っている。
田中氏のご依頼は、劉氏のオーバーステイの状態を解消し、適法に婚姻生活が出来るようにして欲しいとのことでした。
それから在留特別許可の申請準備に入りましたが、内縁関係では許可を得ることは困難であることを説明して、まずはお二人が正式に婚姻することを勧めました。
元々お二人は入籍することを希望しておりましたので、直ぐに婚姻の準備を開始しまして、平成31年4月に市役所を訪れ婚姻届けを提出しました。
令和元年5月のことですが、上申書、陳述書等の申請書類の準備が全て整った上で、私と田中氏が付き添う形で、劉氏は品川の東京入管に出頭しました。
ここで在留特別許可を進める上で、とても重要なアドバイスをしたいと思います。
過去に法律に抵触する行為がオーバーステイだけであれば、自ら入管に出頭することを前提として、恐らく入管収容所に収容されることはありませんし、在留特別許可の申請も進むものと思います。
但し、オーバーステイ以外の犯罪行為があった場合には、最悪の場合ですが出頭した即日に収容されてしまう可能性があります。
劉氏がどうなったかと申しますと、出頭当日に収容されてしまいました。
入管が調査した結果、劉氏が最初に入国した翌年、平成11年5月に入管に自ら出頭し、オーバーステイの状態を申告したにもかかわらず、その後行方不明となっていることが判明しました。
この記録により、逃亡の恐れがあると判断され、即日収容の処置となってしまいました。
この当時の事実は田中氏も知らなかったとのことで、私も事前に把握することが出来ませんでした。
ご依頼を受けた最初の段階で、ご夫婦には思い当たる全てのことを、特に犯罪及び入管に係ることに関しては、包み隠さず話すようにお願いしておりましたが、この事実はお話して頂けませんでした。
その後何回か田中氏に同行して、収容所に面会に行きましたが、劉氏はいつも泣いてばかりで、収容所の環境の過酷さを思い知らされました。
警察の留置場或いは拘置所に比べれば、入管収容所の待遇は良いと聞いていますが、それでも耐え難い環境であることは間違いない様です。
それからどうなったかと申しますと、劉氏は収容に耐え切れずに在留特別許可は断念され、中国に退去強制処分として帰国されました。